垂足曲線

Pに対する曲線Cの垂足の幾何学的な構築

垂足曲線(すいそくきょくせん、: pedal curve)は、曲線接線に対する、固定された点の直交射影が成す曲線である[1][2][3][4][5]。より正確に言えば、平面曲線Cと点P (Pedal point)について、Pを通るC接線の垂足(接線と垂線の交点)Xの軌跡を垂足曲線という。逆に、曲線C上の任意の点Rで接する接線Tのある垂線が、ある点Pを通るなら、その接線の垂足は垂足曲線を成す。

垂足曲線を補完するために、四角形PXRY長方形となるように点Yを取る。点Yの軌跡はcontrapedal curveと呼ばれる。

曲線のorthotomicは、P拡大の中心として垂足を2倍に拡大した曲線である。これは、Pを接線T鏡映した点の軌跡である。

垂足曲線は、曲線Cnの垂足曲線をCn+1として、C0,C1,C2,C3...と定義していったときの一連の曲線の最初の曲線である。この曲線内で、CnC0の n th positive pedal curveという。逆にC0Cnのn番目の負垂足線 (nth negative curve) または逆垂足曲線と呼ばれる[6][7][8][9][10]

方程式

直交座標によるアプローチ

Pを原点とする。また、曲線CF(x, y)=0とする。C上の点R=(x0, y0)の接線は次の形で書くことができる。

cos α x + sin α y = p {\displaystyle \cos \alpha x+\sin \alpha y=p}

このとき位置ベクトル(cos α, sin α)線分PX(接線の垂線)と平行で長さが等しい。したがって、X極座標(p, α) と表せる。(p, α)(r, θ)で置き換えると極形式の垂足曲線の形を得る[11]

楕円(黒)の垂足曲線(赤)。楕円はa=2,b=1で垂足曲線は4x2+y2=(x2+y2)2

例として、楕円の垂足曲線を挙げる[12]。楕円の方程式は次の式で表される。

x 2 a 2 + y 2 b 2 = 1 {\displaystyle {\frac {x^{2}}{a^{2}}}+{\frac {y^{2}}{b^{2}}}=1}

楕円上の点R=(x0, y0)における接線は

x 0 x a 2 + y 0 y b 2 = 1 {\displaystyle {\frac {x_{0}x}{a^{2}}}+{\frac {y_{0}y}{b^{2}}}=1}

である。これを上記の形に書き換えると次のようになる。

x 0 a 2 = cos α p , y 0 b 2 = sin α p . {\displaystyle {\frac {x_{0}}{a^{2}}}={\frac {\cos \alpha }{p}},\,{\frac {y_{0}}{b^{2}}}={\frac {\sin \alpha }{p}}.}

楕円の方程式からx0, y0消去(英語版)して

a 2 cos 2 α + b 2 sin 2 α = p 2 , {\displaystyle a^{2}\cos ^{2}\alpha +b^{2}\sin ^{2}\alpha =p^{2},\,}

を得る。(r, θ)に置き換えると

a 2 cos 2 θ + b 2 sin 2 θ = r 2 , {\displaystyle a^{2}\cos ^{2}\theta +b^{2}\sin ^{2}\theta =r^{2},\,}

となる。この式は容易にデカルト座標の方程式に置き換えることができる。

a 2 x 2 + b 2 y 2 = ( x 2 + y 2 ) 2 . {\displaystyle a^{2}x^{2}+b^{2}y^{2}=(x^{2}+y^{2})^{2}.\,}

極方程式によるアプローチ

Pを原点とする。曲線Cを極座標r=f(θ)で与える。R=(r, θ)C上の点、X=(p, α)を前項と同様に定義する。ψを接線及び動径の偏角として、

r = d r d θ tan ψ {\displaystyle r={\frac {dr}{d\theta }}\tan \psi }

より

p = r sin ψ , α = θ + ψ π 2 . {\displaystyle p=r\sin \psi ,\quad \alpha =\theta +\psi -{\frac {\pi }{2}}.}

これらの方程式は(r, θ)を垂足曲線の等式の変数(p, α)に置き換えることができる[13]

例として、円r = a cos θの垂足曲線を考える[14]

a cos θ = a sin θ tan ψ {\displaystyle a\cos \theta =-a\sin \theta \tan \psi }

であるから

tan ψ = cot θ , ψ = π 2 + θ , α = 2 θ . {\displaystyle \tan \psi =-\cot \theta ,\,\psi ={\frac {\pi }{2}}+\theta ,\alpha =2\theta .}

と、

p = r sin ψ   = r cos θ = a cos 2 θ = a cos 2 α 2 . {\displaystyle p=r\sin \psi \ =r\cos \theta =a\cos ^{2}\theta =a\cos ^{2}{\alpha \over 2}.}

が成り立つ。これらを解いて、

r = a cos 2 θ 2 . {\displaystyle r=a\cos ^{2}{\theta \over 2}.}

垂足方程式によるアプローチ

曲線の垂足座標による表示と垂足曲線は深い関係にある。原点Pをpedal pointとして取る。R における動径と曲線の成す角ψは、垂足曲線の対応するXにおける角と等しい。pを垂線の長さ(Pから垂足Xまでの距離PX)、qを対応する垂足曲線のPを通る垂線の長さとすれば、三角形相似より、

p r = q p . {\displaystyle {\frac {p}{r}}={\frac {q}{p}}.}

これより、曲線の垂足方程式をf(p, r)=0として、垂足曲線の垂足方程式は次の式で表せる[15]

f ( r , r 2 p ) = 0 {\displaystyle f(r,{\frac {r^{2}}{p}})=0}

この式から曲線のnth positive/negative pedal curveの垂足方程式は簡単に求めることができる

パラメトリック方程式によるアプローチ

同じ楕円のContrapedal curve
楕円のエボリュート曲線の垂足曲線。楕円のcontrapedal curveと一致する。

v = P R {\displaystyle {\vec {v}}=P-R} とする。また、 v {\displaystyle {\vec {v}}} 接線ベクトルと法線ベクトル(英語版)に分解して次のように書く。

v = v + v {\displaystyle {\vec {v}}={\vec {v}}_{\parallel }+{\vec {v}}_{\perp }} ,

v {\displaystyle {\vec {v}}_{\parallel }} RX方向のベクトルとなる。

tパラメタとして曲線cの垂足曲線のパラメトリック方程式

t c ( t ) + c ( t ) ( P c ( t ) ) | c ( t ) | 2 c ( t ) {\displaystyle t\mapsto c(t)+{c'(t)\cdot (P-c(t)) \over |c'(t)|^{2}}c'(t)}

で表される(c'が0または定義できない点は無視する)。

曲線を媒介的に定義して、pedal pointが(0,0)である曲線の垂足曲線は、

X [ x , y ] = ( x y y x ) y x 2 + y 2 {\displaystyle X[x,y]={\frac {(xy'-yx')y'}{x'^{2}+y'^{2}}}}
Y [ x , y ] = ( y x x y ) x x 2 + y 2 . {\displaystyle Y[x,y]={\frac {(yx'-xy')x'}{x'^{2}+y'^{2}}}.}

と表せる。contrapedal curveは次の式で与えることができる。

t P c ( t ) ( P c ( t ) ) | c ( t ) | 2 c ( t ) {\displaystyle t\mapsto P-{c'(t)\cdot (P-c(t)) \over |c'(t)|^{2}}c'(t)}

同じpedal pointでは、contrapedal curveは曲線の縮閉線の垂足曲線と一致する。

幾何学的な性質

Pを通る直線と、曲線の接線が直角を成すような剛体移動を考える。この角の頂点Xは曲線とPの垂足曲線をたどる。角が動けばPに対する動く方向はPXと平行になり、Rの動く方向は接線T (=RX)に平行になる。したがって瞬間中心は、PXPを通る垂心と、RXRを通る垂線の交点Yである。Xにおける垂足曲線の接線はXYXを通る垂線と一致する。

直径をPRとする円は長方形PXRYに外接し、またXYを直径に持つ。したがって円と垂足曲線はどちらもXYと直交し、Xで接する。 故に、垂足曲線はもとの曲線上の点をRとして、直径をPRとする円の包絡線となる。

直線YRは曲線の法線であり、その包絡線は曲線の縮閉線である。故にYRは縮閉線の接線で、YPを通る縮閉線の接線の垂足である。つまりYは縮閉線の垂足曲線である。よってcontrapedal curveは元の曲線の縮閉線の垂足曲線であることが従う。

CPを中心に2倍縮小した図形をC'とする。 Rに対応する点R'は長方形PXRYの中心であり、R'におけるC'の接線はPY,XRと平行な直線で、長方形を二等分する。Pから発射され、R'C'に衝突して反射する交線はYを通る。この反射された交線はCの垂足曲線と直交する直線であるXYと一致する。垂足曲線に直交する直線の包絡線は、反射された交線の包絡線、C'火線(英語版)となる。 これは、曲線の火線はorthotomicの縮閉線と一致することの証明に使われる。

前述の様に、PRを直径とする円が垂足曲線に接する。この円の中心R'はである。

D'C',D'の共通接線で鏡映の関係にある合同な曲線として、輪転曲線(英語版)の定義の様に、C'上を滑らせずに転がす。ニ曲線が点R'で接するとすれば、 Pと対応する点はXとなる。また輪転曲線は垂足曲線となる。同様に、曲線のorthotomicは輪転曲線の鏡映像の輪転曲線となる。

蝸牛形 - 円の垂足曲線

Cが円であるとき、上記の議論から蝸牛形は以下の様な定義ができる。

  • 円の垂足曲線。
  • ある固定点と円上の点を直径の両端とする円の包絡線。
  • 中心が円上にあり固定点を通る円の包絡線。
  • 同半径の円上を転がる円の輪転曲線。

円の火線は蝸牛形の縮閉線である。

有名な曲線の垂足曲線を挙げる[16]

曲線 方程式 Pedal point 垂足曲線
円周上の点 カージオイド
任意の点 蝸牛形
放物線 焦点 頂点における接線
放物線 頂点 ディオクレスのシッソイド
デルトイド 中心 Trifolium
楕円または双曲線 焦点 副円
楕円または双曲線 x 2 a 2 ± y 2 b 2 = 1 {\displaystyle {\frac {x^{2}}{a^{2}}}\pm {\frac {y^{2}}{b^{2}}}=1} 中心 a 2 cos 2 θ ± b 2 sin 2 θ = r 2 {\displaystyle {a^{2}}\cos ^{2}\theta \pm {b^{2}}\sin ^{2}\theta =r^{2}}  (Hippopede
直角双曲線 中心 ベルヌーイのレムニスケート(英語版)
対数螺旋 対数螺旋
正弦波螺旋(英語版) r n = a n cos n θ {\displaystyle r^{n}=a^{n}\cos n\theta } r n n + 1 = a n n + 1 cos n n + 1 θ {\displaystyle r^{\tfrac {n}{n+1}}=a^{\tfrac {n}{n+1}}\cos {\tfrac {n}{n+1}}\theta } (別の正弦波螺旋)

関連項目

出典

  1. ^ 窪田忠彦『近世幾何学』岩波書店、1947年、148頁。doi:10.11501/1063410。 
  2. ^ 沢田吾一『微分積分学綱要』富山房、1930年、141-143頁。doi:10.11501/1031308。 
  3. ^ 窪田忠彦『歯車の幾何学』河出書房、1948年、15頁。doi:10.11501/1159825。 
  4. ^ 掛谷宗一『積分学』岩波書店、1946年、78-79頁。doi:10.11501/1229809。 
  5. ^ ジョージ・サーモン 著、小倉金之助 訳『初等幾何學 第2卷 空間之部』山海堂、1915年、308頁。doi:10.11501/1082037。 
  6. ^ 下田卯市『微分積分学』大倉書店、1922年、486-491頁。doi:10.11501/960420。 
  7. ^ 寺沢寛一『微分学講義』積善館、1910年、340-345頁。doi:10.11501/828996。 
  8. ^ Edwards p. 165
  9. ^ 藤原松三郎『数学解析 第1篇』内田老鶴圃、1940年、148頁。doi:10.11501/1212195。 
  10. ^ 垂足線と言う語はシムソン線を指す場合もある。
  11. ^ Edwards p. 164
  12. ^ Follows Edwards p. 164 with m=1
  13. ^ Edwards p. 164-5
  14. ^ Follows Edwards p. 165 with m=1
  15. ^ Williamson p. 228
  16. ^ Edwards p. 167
  • J. Edwards (1892). Differential Calculus. London: MacMillan and Co.. pp. 161 ff. https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.109607 
  • Benjamin Williamson (1899). An elementary treatise on the differential calculus. Logmans, Green, and Co.. pp. 227 ff. https://archive.org/details/anelementarytre05willgoog 

参考文献

  • Differential and integral calculus: with applications by George Greenhill (1891) p326 ff. (Internet Archive)
  • J. Dennis Lawrence (1972). A catalog of special plane curves. Dover Publications. p. 60. ISBN 0-486-60288-5. https://archive.org/details/catalogofspecial00lawr/page/60 
  • "Note on the Problem of Pedal Curves" by Arthur Cayley

外部リンク

  • Weisstein, Eric W. "Pedal Curve". mathworld.wolfram.com (英語).
  • Weisstein, Eric W. "Contrapedal Curve". mathworld.wolfram.com (英語).
  • Weisstein, Eric W. "Orthotomic". mathworld.wolfram.com (英語).
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