赤い帽子を被った男の肖像

『赤い帽子を被った男の肖像』
イタリア語: Ritratto di giovane in pelliccia
英語: Portrait of a Man in a Red Cap
作者ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
製作年1516年ごろ
種類キャンバス上に油彩
寸法82.2 cm × 71.1 cm (32.4 in × 28.0 in)
所蔵フリック・コレクションニューヨーク

赤い帽子を被った男の肖像』(あかいぼうしをかぶったおとこのしょうぞう、: Ritratto di giovane in pelliccia: Portrait of a Man in a Red Cap[1] は、イタリア盛期ルネサンスヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1516年ごろ、キャンバス上に油彩で制作した絵画である。かつて、作品の雰囲気、ポーズ、技術のためにジョルジョーネに帰属されたこともある[2]。1915年以来、ニューヨークフリック・コレクションに所蔵されている[2]

作品

ジョルジョーネとティツィアーノに帰属『合奏』 (1510年ごろ)、パラティーナ美術館フィレンツェ
カルロ・ドルチ『聖アンデレの磔刑』 (1646年)、パラティーナ美術館

この作品は一般にティツィアーノの初期の作品と見なされている[2]。『手袋を持つ男』 (ルーヴル美術館) とともに画家の パドヴァ滞在期 (1513-1515年ごろ) 直後に帰属される2点の男性肖像画のうちの1点である[3]。フリック・コレクションは本作の制作年を1516年ごろとしている[4]

この絵画のモデルとして、さまなざな人物が提唱されてきたが、確証はない[2]。この人物は、かつてジョルジョーネに帰属されたこともあるティツィアーノの『合奏』[5] (パラティーナ美術館フィレンツェ) の中央の人物に類似している[2]

絵画は少なくとも17世紀には明らかによく知られていた。イタリア・バロック期の画家カルロ・ドルチは、自身の絵画『聖アンデレの磔刑』 (パラティーナ美術館フィレンツェ) の背景に『赤い帽子を被った男』の人物の複製を描いている[2][4][6]

本作は、何人かの個人の所有を経て、1906年にクリスティーズ競売に掛けられ、ヒュー・レイン卿(英語版)に購入され[2][7]、1915年にヘンリー・クレイ・フリック (英語版)に購入された[2]。1910年に、美術批評家のチャールズ・リキッツ(英語版)は、1906年におけるこのティツィアーノ肖像画の発見について以下のように記している。

作品は、しばらく前に黒ずんで汚れた状態でクリスティーズ社に持ち込まれた。その時、私はこの美しいジョルジョーネ的な絵画をフランチェスコ・ヴェチェッリオ(英語版)の初期の絵画だと想像した。その根拠として、色彩に関する印象と、ティツィアーノの技法についてのフランチェスコの知識を証立てているという印象があった。以後、絵画は洗浄されている。ふたたび、それを見た時、神聖な表現を使うなら、目からうろこが落ちた。どうして私は、この傑作を2流画家の作品だと勘違いしてしまったのであろうか。どうして目蓋の形、顎の構造、影の形が私にはわからなかったのであろうか。茶色の背景は (修復以前は) 輝く暖色の灰色になっていた。私が取るに足らないと思っていた手袋と毛皮 (の描写) は、巨匠の繊細な顔料を示していた。リネンの描写における「生地重ね」(pâte sur pâte) はティツィアーノの慣例であった。 作品は際立っていた。フランクフルトにある『頭部』のような単なる興味深い問題としてではなく、保存においてコブハム・ホール (Cobham Hall) の『キルトの袖をつけた男の肖像』(現在、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵) 、同時代かやや遅い時期の美しい『テンプル・ニューサムの肖像』 (Portrait of Temple Newsam) よりも優れた傑作として際立っていたのである[8]

脚注

  1. ^ It is called Portrait of a Young Man in Nichols, Tom, Titian and the End of the Venetian Renaissance, London: Reaktion Books, 2013, pp. 88-89. ISBN 978 1 78023 186 0
  2. ^ a b c d e f g h “Portrait of a Man in a Red Hat”. フリック・コレクション公式サイト (英語). 2023年11月17日閲覧。
  3. ^ Ricketts 1910, p. 45.
  4. ^ a b Ryskamp; et al. 1996, p. 50.
  5. ^ “The Concert”. パラティーナ美術館公式サイト (英語). 2023年11月17日閲覧。
  6. ^ Dalvit and Peyton, Titian's Man in a Red Hat, pp. 36-37.
  7. ^ Ricketts 1910, p. 183.
  8. ^ Ricketts 1910, p. 46

参考文献

  • Ryskamp, Charles; Davidson, Bernice; Galassi, Susan; Munhall, Edgar; Tscherny, Nadia (1996). Art in the Frick Collection: Paintings, Sculpture, Decorative Arts. New York: Harry N. Abrams, Inc., pp. 26, 50.
  • "Portrait of a Man in a Red Hat - Collections". The Frick Collection. Retrieved 21 August 2022.
  • "Portrait of a Man in a Red Cap - Exhibitions". The Frick Collection. Retrieved 21 August 2022.
  • Dalvit, Giulio and Elizabeth Peyton, Titian's Man in a Red Hat. New York: The Frick Collection, 2022. ISBN 978-1-913875-30-5ISBN 978-1-913875-30-5

帰属

  • この記事には現在パブリックドメインとなったRicketts, Charles (1910). Titian. London: Methuen & Co. Ltd. pp. 45–46, 177, plate xxvii.からの記述が含まれています。

外部リンク

フリック・コレクション公式サイト、ティツィアーノ『赤い帽子を被った男の肖像』 (英語)

世俗画
肖像画
宗教画
  • 聖母子とパドヴァの聖アントニウス、聖ロクス』(1508年頃)
  • 『十字架を担うキリスト』(1510年頃)
  • 聖家族と羊飼い』(1510年頃)
  • 新生児の奇蹟』(1511年)
  • ジプシーの聖母』(1511年頃)
  • 『キリストの洗礼』(1511年-1512年頃)
  • 『大天使ラファエルとトビアス』(1512年-1514年頃)
  • 『ノリ・メ・タンゲレ』(1514年頃)
  • サクランボの聖母』(1515年)
  • 『貢の銭』(1516年)
  • 聖母子と聖ドロテア、聖ゲオルギウス』(1516年–1518年頃)
  • 『聖母被昇天』(1516年–1518年頃)
  • 『受胎告知(トレヴィーゾ大聖堂)』(1520年頃)
  • 『キリストの埋葬(ルーヴル美術館)』(1520年頃)
  • アヴェロルディ家の祭壇画』(1520年–1522年)
  • ペーザロ家の祭壇画』(1519年–1526年頃)
  • 聖母子と聖カテリナと羊飼い』(1530年頃)
  • 『アルドブランディーニの聖母』(1532年頃)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(パラティーナ美術館)』(1533年頃)
  • 『受胎告知(サン・ロッコ大同信会)』(1535年頃)
  • 『聖母の神殿奉献』(1534年-1538年頃)
  • シャッラの聖母』(1540年年頃)
  • 『洗礼者聖ヨハネ』(1540年-1542年頃)
  • 『荊冠のキリスト(ルーヴル美術館)』(1542年-1543年)
  • 『この人を見よ(ウィーン)』(1543年)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(カポディモンテ美術館)』(1550年頃)
  • 『アダムとイヴ』(1550年頃)
  • 『ラ・グロリア(聖三位一体の礼拝)』(1551年-1554年)
  • 『聖ラウレンティウスの殉教』(1548年-1559年頃)
  • 『キリストの埋葬(プラド美術館)』(1559年)
  • 『ゲツセマネの祈り』(1558年-1562年頃)
  • 『受胎告知(サン・サルバドール教会)』(1559年-1564年頃)
  • アルベルティーニの聖母』(1560年–1565年頃)
  • 『悔悛するマグダラのマリア(エルミタージュ美術館)』(1565年頃)
  • 『聖マルガリタ』(1565年頃)
  • 『祝福するキリスト』(1570年頃)
  • 『荊冠のキリスト(ミュンヘン)』(1570年頃)
  • 『聖セバスティアヌス』(1570年-1572年)
  • スペインによって救済される宗教』(1572年-1575年)
  • 『ピエタ』(1575年-1576年)
関連項目
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