双曲型集合

数学力学系理論において、ある滑らかな多様体 M の部分集合 Λ が、ある滑らかな写像 f に関する双曲型構造(そうきょくがたこうぞう、: hyperbolic structure)を持つとは、その接束を二つの不変な部分束(英語版)に分解でき、M 上のあるリーマン計量に関して、その一方は f の下で縮小で、もう一方は拡大となることを言う。類似の定義はフローに対しても適用できる。

全多様体 M が双曲型であるような特別な場合は、写像 fアノソフ微分同相(英語版)と呼ばれる。ある双曲型集合上での f の力学、あるいは双曲型力学と呼ばれるものは、局所的な構造安定性を示すもので、長い間多くの研究がなされている。例えば公理A(英語版)を参照。

定義

Mコンパクトかつ滑らかな多様体f: MM微分同相Df: TMTMf微分(英語版)とする。f-不変な M の部分集合 Λ が双曲型である、あるいは双曲型構造を持つとは、M の接束の Λ への制限を、安定束 Es および不安定束 Eu と呼ばれる二つの Df-不変な部分束に分解できることを言う。M 上のあるリーマン計量に関して、DfEs への制限は縮小であり、Eu への制限は拡大となる。したがって、ある定数 0<λ<1 および c>0 が存在し、

T Λ M = E s E u , {\displaystyle T_{\Lambda }M=E^{s}\oplus E^{u},}
( D f ) x E x s = E f ( x ) s {\displaystyle (Df)_{x}E_{x}^{s}=E_{f(x)}^{s}} and ( D f ) x E x u = E f ( x ) u {\displaystyle (Df)_{x}E_{x}^{u}=E_{f(x)}^{u}} for all x Λ , {\displaystyle x\in \Lambda ,}
D f n v c λ n v {\displaystyle \|Df^{n}v\|\leq c\lambda ^{n}\|v\|} for all v E s {\displaystyle v\in E^{s}} and n > 0 {\displaystyle n>0} ,

および

D f n v c λ n v {\displaystyle \|Df^{-n}v\|\leq c\lambda ^{n}\|v\|} for all v E u {\displaystyle v\in E^{u}} and n > 0 {\displaystyle n>0}

が成り立つ。Λ が双曲型であるなら、c = 1 となるようなあるリーマン計量が存在し、そのような計量は適合(adapted)と呼ばれる。

  • 双曲型平衡点 p は、(Df)p絶対値 1 の固有値を持たないような f平衡点である。この場合 Λ = {p} となる。
  • より一般に、周期 n であるような f周期軌道が双曲型であるための必要十分条件は、その軌道の任意の点における Dfn が絶対値 1 の固有値を持たないことである。この条件を示す上では、その軌道の一つの点のみを調べれば十分である。

参考文献

  • Ralph Abraham and Jerrold E. Marsden, Foundations of Mechanics, (1978) Benjamin/Cummings Publishing, Reading Mass. ISBN 0-8053-0102-X
  • Brin, Michael; Garrett, Stuck (2002). Introduction to Dynamical Systems. Cambridge University Press. ISBN 0-521-80841-3 

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